先に書いた「麻生八咫の大活弁」を昨日藤岡市に出かけて見てきました。「みかぼみらい館」は平成7年にできたプラネタリュウムもあるなかなか瀟洒な建物でした。
活弁を簡単に説明すると、昔のサイレント映画に弁士がナレーションや台詞を入れることです。かっての活動写真(映画)には、この活弁がつきもので多くの活弁がいたのですが、映画の技術が進歩しフィルムに音声も加えられたトーキーになってからは、その職業はすたれてしまいました。
麻生八咫(あそうやた)さんはその活弁の仕事を現代にも生かし続けようとしている稀有なかたです。
公演が始まる前に会場をのぞいてみると、麻生八咫さんと娘さんの子八咫さんが本番前のスクリーン映像や音響、照明などのタイミングを熱心にチェックされていました。使っている機材はフィルムの映写機ではなくビデオ・プロジェクターです。なるほどと思いました。活弁と聞けばノスタルジア溢れるもので、つい昔の無声映画のフィルムを映写機のリールにかけて…と思い込みがちなのですが、時代は今や21世紀、ビデオ・プロジェクターのほうが手間が省けるわけですね。そのプロジェクターの隣りにバック・グランドミュージック用のアンプみたいな機器がありましたが、これの担当は娘の子八咫さんでした。
カメラで弁士とスクリーンが同時に写せる場所はないものだろうか?とあたりを見回すと、会場の側面上方にバルコニー席というのがあった。よく外国映画の劇場シーンに見る貴族などのやんごとなきお方たちが羽団扇を持ち観劇している、あれです。雰囲気はかなり違うが椅子の背もたれがマッキントッシュのように高くなっているので、それなりの感じは出ている。よし。あそこならスクリーンも活弁士もうまく画面に納まるだろうと、座席は「バルコニー席」に決める。
そのうち時間となり、会場の照明が暗くなると麻生八咫が黒いモーニングを着て鉦と太鼓を組み合わせた楽器「チンドン」を鳴らしながら会場左手の扉から表れる。まるでお祭りの雰囲気だ。
そのまま正面の舞台に上がると「フランスのルミュール兄弟、アメリカのエジソン…」という活動写真の生い立ち、活弁士の由来を軽く述べると「本日はにぎにぎしくもご来館をたまわりましてまことにありがとうございます。それでは映写用意…スタート!」の口上で「大活弁」が始まる。
サイレントの映像だけならば、それは古い日本家屋の土蔵の中のような陰惨とでもいうべきものだ。暗くハイ・コントラストの画面は時間の経過により雨が降っている。チョンマゲを結った男たち、着物姿の女たちは声はしないのに口をパクパクさせているだけだ。その映像に生命の息吹をもたらすのは活弁士に他ならない。麻生八咫はその死せる映像に命をあたえている。音楽を聴くようなナレーションで、さまざまの人物の声を使い分け、鉦や太鼓の「チンドン」で音響効果を与え、時には身振り手振りでお侍、侠客、町娘など銀幕のの人物になってしまう。そのとき活動写真は永い眠りからようやく目を覚ますようだっだ。
上映パンフレットでは「血煙り高田の馬場」「血煙り荒神山」「国定忠治」だったのだが、この日の最初の上映に「野狐三次」の1本が新たに加えられた。なんか得した気分になりました。
写真(上)公演前のリハーサル。スクリーンの画面は「国定忠治」。
写真(下)本番は鉦と太鼓を組み合わせた楽器「チンドン」を身につけて登場しました。
麻生八咫オフィシャル・サイト
http://www.sunforce.co.jp/yata/index.shtml
麻生八咫・子八咫本舗
http://www.katsuben.com/