群馬会館でタルコフスキーの「ノスタルジア」を20年ぶりぐらいで見ました。
むかしはタルコフスキーに熱狂していた一時期もあったのですが、しばらく前からその熱も冷めてしまってよいのか悪いのか映画の中身とは関係ないところを見てしまいます。
登場する犬はシェパードみたいですが、この犬がとてもかしこい。おそらくこの犬がうまく「演技」していなかったら、「ノスタルジア」の完成はおぼつかなったでしょう。ロシアの田舎のシーン、詩人アンドレが滞在するホテル、狂人ドメニコの家などさまざまのシーンで犬が登場しますが、よほど訓練されていて勝手に動き回るような無駄な演技をしません。まあ、動物のことですから何度かはNGを出したのだろうが、いい演技をしています。
追記 : このシェパードだが、タルコフスキー自身が飼っていたダックス(ダーネチカ)という愛犬じゃないかと思う。
あと、あらためて思ったのはカメラの撮影がとても丁寧に撮られていたこと。その前に見た河瀬直美の「火蛍」の撮影ハンディ・カメラだったので対照的に感じられました。「ノスタルジア」は人物など画面の中心を見ているとわからないのですが、画面の端を見ていると超スローでアップしてゆくのがわかります。あれはカメラ自体に備わっている機能を使ってズームしたのか、それともレールの上でカメラを移動させたのだろうか?ラストシーンのロシアの田舎とイタリアの遺跡を合成させたシーンもあらためて見るととても奇妙です。前景と後景とでは雪の降り方が異なっているのだ。CG全盛の今日からすれば新鮮に感じられます。もっともタルコフスキーには東京の首都高速を撮って未来都市を表現するというウルトラCの大技がありますね。撮影を担当したのはジョゼッペ・ランチという方らしい。
詩人アンドレのホテルの部屋、アンドレが窓を開けると外は雨降りなので部屋の向こうがわからないのです。最初植え込みか森だろうと見当をつけていたが、しばらくすると薄黒いかたまりがゆっくりと下に流れていくのです。なんだろう思っていると、また黒いのがゆっくりと下に落ちていく。フィルムのキズでもなさそうだし。窓ガラスはないはずなのですが仮にガラスがあったとすれば、窓に貼りついた木の葉が雨に打たれて流れ落ちている感じがした。そのシーンではその黒いものの正体はわからずじまいだったのだが、ラスト近くで雨ぬきのシーンがあったので確認してみる。窓の外は土壁。つまりあの黒っぽいものはどうやら土壁が剥がれて流れ落ちていたのだ。詩人アンドレのホテルの部屋は映画用のセットだろうから、インスタントにこしらえた壁がホースで散水した水で流れてしまったようです。
ノスタルジア・コム http://www.acs.ucalgary.ca/~tstronds/nostalghia.com/
最後に河瀬直美監督の「火蛍」でよかったシーンは香川県の田舎の水田が風に吹かれてなびくと次にフェリーの航行する波頭にオーバーラップするところでした。タルコフスキーと河瀬さんに共通するのはモチーフとしての火と水でしょうか。
「タルコフスキー日記Ⅱ」武村知子訳、キネマ旬報社を読むと、タルコフスキーが癌で亡くなる晩年にかかわりがあったようです。
亡命したタルコフスキーがソビエトから家族(息子と妻の母親)を呼び寄せたときに、パリの空港で家族の待ち焦がれていた再会を16ミリフィルムで記録したのがクリス・マルケル。「おそらくは私の生涯のうちで最も重大なこの瞬間をこうしてフィルムに収めてくれたクリフに感謝する」とタルコフスキーは「日記」に書いている。
また「サクリファイス」のイタリア語吹き替え版の制作にも協力している。「クリス・マルケルがビデオの機材を持ち込んで、上映準備を手伝った。吹き替えは極上の出来だった」と。
晩年にタルコフスキーとかかわりがあった人をクリフ・マイケルと書いていますが、「サン・ソレイユ」を撮ったフランス人の映画監督はクリス・マルケル(CHRIS MARKER)です。タルコフスキー日記Ⅱ」にそう書いてあるなら、もしかして別人? それとも福助さんの読み違いでしょうか?
Posted by: Toshibon at 2003年11月10日 01:18何度もすみません。(クリス)マイケルではなくMARKER(マルケル)です。S・ソダーバーグをソーダバーグと書くのと似たようなものですが、フランス人でマイケルというのはやっぱりちょっとへんではないかと…。
クリス・マルケルは一応有名監督ですから、おせっかいと思いつつ。細かくて申し訳ありません。
たびたびご指摘をありがとう。
クリス・マルケルです。「サン・ソレイユ」を撮った映画監督と同じ方でしょう。
わたくし「サン・ソレイユ」は未見なので名前をあまりチェックすることなく書いてしまいました。すみません。
Posted by: fuqusuke at 2003年11月11日 19:47